ハリウッド・スターにはつねに多くの脚本が送られてくるもの。アカデミー賞俳優ジェイミー・フォックスがあまたのシナリオの中、本作に惹かれたのは、主人公の警官ヴィンセント役が強い意気を持ったキャラクターだから。「何か気骨のある役が欲しかった。何か今までとは違う匂いがするような役を」と彼は言う。物語の始まりでは、ヴィンセントは汚職警官として観客の前に姿を現わす。それでも、どこか共感を覚えるようなキャラクターである点が、彼の心に引っかかった。「多くの人にとって身近に感じられるキャラクターにしたかったんだ。ヴィンセントは、すべてが絶望的な状況の中にいる。"妻とやり直したい""息子の気持ちを尊重したい"と思っているんだ。それと同時に、彼は標的にされている。何者かに追いかけられている。ターミネーターのようなしつこい連中に、どこまでも追いかけられるんだ」そんなシチュエーションで、人は同行動するのか? フォックスは必死の男を演じるため、なりきることに徹したという。「警官は公的な仕事に過ぎない。でも息子が誘拐されたら、事は一気に個人的なものになる。息子の無事を確保するためなら、何でもやる。俺は"息子の代わりに、俺を捕まえろ"という心境を想像しながら演じたんだ」
精神面のみならず、フォックスは肉体面でも意欲的に取り組んだ。ヴィンセントには、とにかくアクション場面が多い。この役を演じるため、フォックスは2か月かけてマーシャルアーツのトレーニングを積んだ。スタント・コーディネーターのジェフ・イマダの指導によって、高いレベルに導かれたことを、彼は喜んでいる。それでもいざ、撮影が始まると決して楽はできなかった。「楽しかったけれど、間違いなく骨の折れる作業だった。疲れて、うっかり動きをひとつ抜いてしまったら、真っ向から鼻にパンチを食らってしまうんだ」
共演にはフォックスに引けを取らない、強烈な個性を持った役者たちが集められた。ブライアントを演じたミシェル・モナハンは、監督と初めてスカイプで話したときのことを覚えているという。「監督は『ダイ・ハード』『リーサル・ウェポン』と同じような映画にしたいと言っていた。キヤラクターをメイン押し出した、痛烈な物語を描きたかったのよ。私は、そこに惹かれたわ」モナハンにとってのチャレンジは、フォックスを相手に格闘を演じること。12時間におよんだ撮影を、彼女は「強烈だった」と述懐する。「ジェイミーにはいくつかのこぶや痣は確実にあったし、彼の歯も少し欠けたと思う。本当にケンカをしているような感じがしたわ。でも、ジェイミー・フォックスをやっつけることができるなんて、最高じゃない?」と彼女は笑う。
悪役ノヴァックにふんしたスクート・マクネイリーの怪演も忘れるわけにはいかない。彼は監督や共演者らと共同作業で、この強烈なキャラクターを作り上げていった。例えばカジノのボス、ルビーノのプライドを屑のように扱う場面。「ノヴァクはルビーノに不満を募らせていくんだけれど、その不満を表現する良いアイデアが浮かんだ」と彼は振り返る。「ルビーノの事務所にはゴルフ・クラブが置いてあって、それでボールを打ち続けてはどうかと提案した。僕もゴルフをやるので、あの撮影はとても楽しめたよ。周りとコラボレーションしながら生まれたシーンだ」
ノヴァックに比べると、ルビーノは危険人物ではあるが、狂暴さという点はひかえめ。しかし頭は切れる、異なったタイプの悪役だ。演じるダーモット・マローニーはこう分析する。「この映画の面白いところは同じ悪役でも、それぞれに"悪役度"が異なるところ。ルビーノは、最初は"単なる悪いヤツ"だったけれど次第に"最悪なヤツ"になるのさ」
映画の舞台はラスベガスで、物語の大半はカジノを擁する巨大ホテル内、ラクサス・カジノで展開する。この娯楽施設は架空のもので、そこでのシーンはすべて、アトランタでセットを建設して撮影された。プロダクション・デザイナーのティム・グライスは「スロットマシーンやブラックジャク用のテーブル、廊下も扉も、とにかく本物のカジノのようにしたかった、物語の世界観を体現する必要があったから」と語る。ラスベガスで多くの時間を過ごしたことがあるジェイミー・フォックスは、その本物そっくりの質感に驚き、感動したと言う。「セットに入った途端、"酒とニューポートのタバコを持ってきてくれ"と言いそうになったよ! ベガスに行ったときの、俺の決まり文句なんだ」
カジノでのほとんどの場面を撮り終えると、スタッフは劇中もっとも破壊的なアクション・シークエンスに取り組んだ。プロデューサーのひとり、アレックス・フォスターは「ゼロからカジノを建てたんだし、最後には映画の中で分解してしまおう、ということになったんだ」と語る。車で突進する破壊の描写は、このようにして生まれた。「ドリンクや色んなものが宙に浮いていたよ」とフォックスは振り返る。「最高だった。子どもに戻ってファンタジーの世界を生きているような気分さ。監督はすべてを楽しい方向に持っていってくれたんだ」